着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)
概 要
着床前遺伝学的検査(PGT: preimplantation genetic testing) は受精卵の段階で染色体や遺伝子の検査を行うことです。これまで日本の着床前検査の対象は染色体の構造異常がある場合のPGT-SR(for chromosomal structural rearrangement)と遺伝子疾患のある場合のPGT-M(for monogenic disorder)に限定されていました。一方、海外では、これらに着床前胚染色体異数性検査(PGT-A:preimplantation genetic testing for aneuploidy)も加えた着床前検査が行われています。
正常な胚の場合、両親由来の染色体が1本ずつ受け継がれ2本でセットになっていますが、胚の染色体異数性では、この2本が1本、3本またはそれ以外の本数となります。海外ではすでに広く実施されている本検査ですが、日本では2020年からのPGT-A/SRの臨床研究を経て、 2022年に日本産婦人科学会により本検査に対しヒトの体外受精・胚移植技術の適用が認められました。
ART治療で妊娠が成立しても初期流産、反復流産、反復ART不成功となることは、決してまれではありません。さらに、初期流産の70-80%は染色体の異数性及び構造異常が原因であることも分かってきました。そのため、本検査で異数性のない胚の移植ができれば、流産率の低下、生産率の向上などART治療成績の改善が期待されます。
着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)の適応
対象者は
夫婦いずれかの染色体構造異常(均衡型染色体転座)などが確認されている不育症(もしくは不妊症)の夫婦
ただし妊娠既往もしくは流死産既往の有無は問われません
着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)の方法と流れ
体外受精または顕微授精を行い胚盤胞から一部細胞を採取し、aCGH (array comparative genome hybridization)またはNGS (next generation sequencing)を用いて全染色体の異常の有無を検査します。この検査では、染色体数の過不足(異数性異常)やご夫婦の染色体構造異常に起因した胚の染色体不均衡型構造異常を検出します。ただし、微細な染色体異常、均衡型構造異常、倍数性異常、遺伝子異常などは検出できません。着床前検査には2〜4週間かかるため胚は一旦凍結保存し、医師より検査結果の説明を受けてから次周期以降に融解胚移植を行います。
検査を受けるまでの流れ
- 着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)を希望または相談する場合のお問い合わせは、遺伝カウンセリング担当者まで
(簡単な説明と説明書・動画のQRコードのご案内・チェックシート・同意書をお渡しします。) - 日本産婦人科学会のサイトより下記の動画2本をご自宅にて視聴し、理解度をチェックシートにご記入ください。
□動画1「不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR)」について
□動画2「PGT-Aの検査対象をなぜ限定しているのか」 - 臨床遺伝専門医によるPGT-SRの説明
- PGT-SR同意書、ARTの同意書、チェックシート提出
- 体外受精または 顕微授精、PGT-SRへ
- ※1〜5までの流れに約1〜2ヶ月ほどのお時間がかかります。
検査の流れ
費用について
着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)は保険診療として認められていないため自費診療となります。
項目 | 費用 |
---|---|
遺伝カウンセリング | ・検査の説明(初回のみ)3,000円(税込3,300円) ・結果の説明 6,000円(税込6,600円) |
PGT-SR解析維持代(採卵周期あたり) | 30,000円(税込33,000円) |
PGT-SRにかかる費用(通常の体外受精または顕微授精の費用に加えて) | ・生検代(胚盤胞1個あたり)30,000円(税込33,000円) ・解析代(胚盤胞1個あたり)50,000円(税込55,000円) |
※なお、お申し込み後にキャンセルを希望された場合や、治療の中断、移植可能な胚が得られなかった場合などには、それまでにかかった費用をご負担いただきます。
検査結果の説明について
診断は外部解析検査所に委託し、診断結果は2〜4週間で分かります。解析結果について下記の4つのカテゴリー分類を用いて判定を行い、常染色体部分の解析結果と合わせて説明をします。
判定・判定内容
- 常染色体が正倍数性(均衡型転座を含む)である胚
- 常染色体の数的あるいは構造的異常を有する細胞と常染色体が正倍数性細胞とのモザイクである胚
- 常染色体の異数性もしくは構造異常(不均衡型構造異常胚など)を有する胚
- 解析結果の判定が不能な胚
- 注)
・胚の解析結果のカテゴリー区分については、今後学会による新たな推奨が行われた場合にはそれに従うことになっています。
・上記のAの判定の胚について、均衡型転座の有無についての情報は開示できません。
・性染色体の解析結果は、原則として患者には開示できません。性染色体に何らかの異常を認める場合には、臨床遺伝専門医が必要と判断した場合に限り、性染色体部分の結果も含めて開示することがあります。
・移植する胚は、解析結果について遺伝カウンセリングが行われた後の夫婦の自律的な意思に従って決定します。
・複数の胚が移植可能と判断された場合は、最も適していると判断した胚を原則として1個のみ子宮に移植します。
遺伝カウンセリングについて
臨床遺伝専門医を有する医師が、検査の実施前、および検査結果が判明し胚移植を行う前の時点で遺伝カウンセリングを行い、本法を希望する夫婦の意思決定を支援いたします。
注意事項
- 本診断は胚の時点での異常を検査するもので、出生児に全く障害がないことを保証するものではありません。
- 現時点では、多くの報告においてPGT-SR胚妊娠における出生児の先天異常は増加しないとされています。児の長期予後についてはまだ明確ではなく、今後慎重にフォローしていく必要があると考えられています。
- さらに正確な染色体検査を希望する場合は、羊水検査などの出生前診断が考慮されます。
- 本診断を受けても、染色体異常以外の原因による着床不全や流産を完全に防ぐことはできません。
- 出生児の性別を選ぶことはできません。
- 基本的には正常受精した全ての胚を胚盤胞まで培養します。
- 日本産科婦人科学会への報告義務があります。
- 検査会社より依頼があった場合、夫婦染色体異常有無の詳細について提示する可能性があります。
- 現時点では保険適用はなく、一連の治療、検査に係る費用は自費になります。
個人情報の保護
生殖補助医療の進歩に貢献するため、患者様に不利益をもたらさない範囲内で、検査結果(数値、画像、組織標本など)を教育や学術発表に使用させていただく場合があります。その際には、個人情報保護法に基づき個人と特定されない形で情報を使用させていただく場合がありますのでご了承ください。また、当院は社団法人日本産科婦人科学会の生殖補助医療の実施登録施設であり、毎年、同学会へ治療成績を報告する義務がありますが、その際にも貴方の個人情報が明らかになることはありません。これらは医学、医療の発展を目的とするものであるため、ご理解の上ご協力をお願いいたします。
実施報告義務について
本法を実施した症例について、本会が行う「PGT-SR実施に関する調査」のために必要な臨床データの報告を行う義務があります。報告では胚の解析検査の実施と解析検査後の胚移植の実施との内容が含まれます。妊娠成立し当院より分娩施設へ転院後は、分娩を取り扱う他の医療機関から、妊娠から出産に至る経過について報告を受ける義務があります。
お問い合わせ先
着床前検査または相談ご希望の場合は当院電話番号、054-288-2882までお気軽にお電話ください。
(音声ガイダンスに沿って「♯」→「1.治療について」に進み、スタッフへ「着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)希望」もしくは「着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)希望」とお伝えください。)